札幌地裁で勝訴しました(要旨・判決文あり)

 2022年3月25日、これまでヤジポイの会が2年以上かけて取り組んでいた国家賠償請求訴訟(国賠)において、札幌地裁で判決が出ました。判決では、被告である北海道(警察)に対して、原告側へ合計88万円を支払うよう命じており、以下に述べるように事実上の「原告完全勝利」といえる内容でした。

 判決では、北海道警察による主張が全面的に退けられました。その中で、警察官によって、安倍首相(当時)に対する批判のヤジが違法に排除されことが認定されました。さらに、そうした排除は憲法21条で保障されている「表現の自由」の侵害であった(=ヤジという政治的表現の自由が奪われた)ということも真っ正面から認められるなど、画期的な内容でした。

北海道警ヤジ排除は「表現の自由」侵害 札幌地裁が道警側に違法判決 2022年3月25日放送(HBC)


 以下、裁判所で読み上げられた判決要旨と判決文、弁護団・原告の声明を載せます。ちなみに、「原告1」とは「安倍やめろ」とヤジを飛ばした大杉雅栄で、「原告2」とは「増税反対」などのヤジを飛ばした桃井希生です(なお、判決要旨については読みやすさを考慮して行間を適宜開ける調整をヤジポイ側で加えています。改行位置は変更していません)

判決の骨子及び要旨

1,事件番号等

令和元年(ワ)第2369号 国家賠償請求事件(第1事件)
令和2年(ワ)第402号国家賠償請求事件(第2事件)

2,当事者

原告 原告1(第1事件原告)、原告2(第2事件原告)
被告 北海道

3,裁判体

札幌地方裁判所 民事第5部合議係
廣瀬孝(裁判長)、河野文彦、佐藤克郎

4,判決日時等

令和4年3月25日午前11時

5,主文

「1 被告は、原告1に対し、33万円及びこれに対する令和元年7月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は、原告2に対し、55万円及びこれに対する令和元年7月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は、原告1と被告との間においてはこれを10分し、その9を原告1の負担とし、その余を被告の負担とし、原告2と被告との間においてはこれを6分し、その5を原告2の負担とし、その余を被告の負担とする。」

6,判決の骨子

(注)「警職法」とは警察官職務執行法を指す。

◯ 原告らは、街頭演説に対して「安倍辞めろ」、「増税反対」などと声を上げたところ、警察官らに肩や腕などをつかまれて移動させられたり、長時間にわたって付きまとわれたりした。

◯ 撮影されていた動画などの関係各証拠によれば、当時、「生命若しくは身体」に危険を及ぼすおそれのある「危険な事態」にあったとか(警職法4条1項)、「犯罪がまさに行われようと」していた(同法5条)などとは認められず、警察官らの上記行為は適法な職務執行とはいえないのであって、これらの行為は違法である。

◯ 原告らの発言は、いささか上品さを欠くきらいはあるものの、いずれも公共的・政治的事項に関する表現行為であるところ、警察官らの上記行為は、このような原告らの表現行為の内容ないし態様が街頭演説の場にそぐわないものと判断して、当該表現行為そのものを制限し、また制限しようとしたものと推認される。

◯ 表現の自由といえども無制限に保障されるものではなく、公共の福祉による制限を受けるものであるが、被告からは、原告らの表現行為自体が「関係者らにおいて選挙活動をする自由」を侵害しているとか、「聴衆において街頭演説を聞く自由」を侵害しているなどの主張も出ていない。

◯ 原告らの表現の自由は、警察官らによって侵害されたものというべきである。

7 ,事実及び理由の要旨

(1)事案の概要

◯ 本件は、原告らが、安倍内閣総理大臣・自由民主党総裁(当時。以下「安倍総裁」という。)の街頭演説に対し、路上等から「安倍辞めろ」、「増税反対」などと声を上げたところ、北海道警察の警察官らに肩や腕などをつかまれて移動させられたり、長時間にわたって付きまとわれたりしたと主張して、被告に対し、国家賠償法1条1項に基づき、損害賠償を求める事案である。

◯ 被告は、当時、「生命若しくは身体」に危険を及ぼすおそれのある「危険な事態」にあったとか(警職法4条1項)、「犯罪がまさに行われようとしていた」(警職法5条)などとして、警察官らの行為は警職法及び警察法の規定に基づく適法な職務執行であったと主張している。

(2)当裁判所の判断①―違法性

◯ 本件証拠上、多くの場面において、「生命若しくは身体」に危険を及ぼすおそれのある「危険な事態」にあったとか(警職法4条1項)、「犯罪がまさに行われようと」していた(同法5条)などということはできず、被告の主張を採用することはできないのであって、警察官らの行為は、国家賠償法1条1項の適用上、違法といわざるを得ない。

(注)違法と判断した警察官らの行為は、以下のとおり。なお、カッコ内は判決書での略称を示す。
・JR札幌駅前で最初に原告1の肩や腕をつかんで移動させた行為(本件行為1(1))
・札幌三越前で原告1の肩や腕をつかんで移動させた行為(本件行為1(3))
・JR札幌駅前で原告2の肩や腕をつかんで移動させた行為(本件行為2(1))
・原告2が札幌駅南口広場の南側に行かないよう、両腕に手を回すなどして引き留め制止した行為(本件行為2(2)のうち制止行為)
・原告2を札幌駅南口広場からTSUTAYA札幌駅西口店まで追従し、もって付きまとった行為(本件行為2(2)のうち追従行為)
・原告2をTSUTAYA札幌駅西口店からTSUTAYA札幌大通店付近まで追従し、もって付きまとった行為(本件行為2(3)のうち追従行為)

◯ 例えば、原告1が最初に肩や腕をつかまれて移動させられた場面において、被告は、周囲の聴衆から原告1への怒号が上がるなどしていた旨を主張し、臨場した警察官もこれに沿う証言をしている。

 しかし、当時の動画上、原告1が声を上げてから、警察官らが原告1の肩や腕をつかむまでの間、警察官が証言したような「お前が帰れ」、「うるさい」などの発言は全く録音されていない。この点、「怒号」というからには相当程度の声量があったはずなのに、動画に全く録音されていないというのは不自然といわざるを得ない。
 そもそも、動画によれば、原告1が声を上げてから警察官らが動き出すまでにわずか数秒程度であり、実際に原告1の肩や腕をつかむまでも10秒程度であって、そのわずかな間、原告1と聴衆との間で騒然となったり、小競り合いが生じたりしたようにはうかがえない。

 加えて、仮に警察官らにおいて、周囲の聴衆が原告1に危害を加えるおそれを感じ、もって警職法4条1項の要件が充足されていると判断したのであれば、端的にそのような聴衆に警告したり、聴衆と原告1との間に割って入ったりするだけで足りるようにうかがわれる。しかるに警察官らは、そのようなことをせず、むしろ被害者であるはずの原告1の肩や腕をつかみ、強制的に移動させたものであって、移動後に原告1を気遣ったり、原告1と聴衆との間の具体的なトラブルの有無を確認したりもしていない。

 そして、他にも証拠上うかがわれる様々な事情を考慮し、警職法4条1項、5条の要件を充足するものということはできないとして、警察官らの行為は国家賠償法1条1項の適用上、違法と判断した。

◯ また、例えば、原告2が最初に肩や腕をつかまれて移動させられた場面において、被告は、周囲の聴衆が騒然となり、もめ事になるのは必至であった旨を主張する。
 しかし、警察官らは後に、原告2から「あそこで急にさ、取り押さえられて」と言われた際、「だっていきなり声上げたじゃーん。」、「急に大声上げたじゃん。」、「聞きたい人にとって、大声出されたら聞きたいこと聞けなくなっちゃうっしょ、ね。」などと発言し、もって、①原告2が声を上げたためにその肩や腕をつかんで移動させた、②周囲の聴衆が演説を聞けなくなるため、警察官らの行為は正当化される旨説明していたのであって、被告の上記主張はこの点で既に疑問がある。
 しかも、臨場した警察官は、証人尋問において、「周囲の聴衆が騒然と」なっていたなどとは証言していないし、撮影された動画をみても、騒然とした状態にあるようにはうかがわれない。
 加えて、臨場した警察官は、原告2に「どうしたの」、「落ち着いて」などと声を掛けたと証言しているものの、動画にはそのような声は録音されていない。

 そもそも、仮に警察官らにおいて、周囲の聴衆が原告2に危害を加えるおそれを感じ、もって警職法4条1項の要件が充足されていると判断したのであれば、端的にそのような聴衆に警告したり、聴衆と原告2との間に割って入ったりするだけで足りるようにうかがわれる。しかるに警察官らは、そのようなことをせず、むしろ被害者であるはずの原告2の肩や腕をつかみ、強制的に移動させたものであって、原告2と聴衆との間の具体的なトラブルの有無を確認したりもしていない。

 結局のところ、動画を見る限りは、聴衆の大多数が演説に耳を傾けていたところ、原告2が1人で「増税反対」などと声を上げ始めたというにすぎない。そして、警察官らはそこからわずか数秒程度で動き出し、10秒程度で原告2の右手首付近をつかんで移動させようとしたのであって、被告のいうような危険な事態にあったとはおよそうかがわれない。
 そして、他にも証拠上うかがわれる様々な事情を考慮し、警職法4条1項、5条の要件を充足するものということはできないとして、警察官らの行為は国家賠償法1条1項の適用上、違法と判断した。

(注)他の行為の違法性については、判決書を直接参照されたい。

(3)当裁判所の判断②―表現の自由

〇 主権が国民に属する民主制国家は、その構成員である国民がおよそ一切の主義主張等を表明するとともに、これらの情報を相互に受領することができ、その中から自由な意思をもって自己が正当と信ずるものを採用することにより多数意見が形成され、かかる過程を通じて国政が決定されることをその存立の基礎としている。
 したがって、憲法21条1項により保障される表現の自由は、立憲民主政の政治過程にとって不可欠の基本的人権であって、民主主義社会を基礎付ける重要な権利であり、とりわけ公共的・政治的事項に関する表現の自由は、特に重要な憲法上の権利として尊重されなければならない。

◯ 本件においてこれをみるに、原告らはいずれも「安倍辞めろ」、「増税反対」などと声を上げていたところ、これらは、その対象者を呼び捨てにするなど、いささか上品さに欠けるきらいはあるものの、いずれも公共的・政治的事項に関する表現行為であることは論をまたない。

 しかるに、原告らは、このような表現行為を開始してわずか10秒程度で、警察官らによって肩や腕をつかまれて移動させられ(原告1及び2)、また相当程度の距離及び時間にわたって付きまとわれたものである(原告2)。そして、これまでみてきたとおり、これらの警察官らの行為が警職法4条1項、5条等の要件を充足するものではない以上、警察官らの行為は、原告らの表現行為の内容ないし態様が安倍総裁の街頭演説の場にそぐわないものと判断して、当該表現行為そのものを制限し、また制限しようとしたものと推認せざるを得ない。このことは、警察官ら自らが、原告1に対し、「演説してるから、それ邪魔しちゃだめだよ。」、「選挙の自由妨害する。」などと発言し、また、原告2に対し、「だっていきなり声上げたじゃーん。」、「急に大声上げたじゃん。」、「聞きたいこと聞けなくなっちゃうっしょ、ね。」などと発言していたことからも明らかである。

 したがって、警察官らの行為は、原告らの表現の自由を制限したものというべきである。

◯ もっとも、表現の自由といえども無制限に保障されるものではなく、公共の福祉による合理的で必要やむを得ない限度の制限を受けるものである。
 しかし、この点につき被告は、原告らの表現行為自体が、例えば安倍総裁及びその関係者らの選挙活動をする自由を侵害しているとか、聴衆において街頭演説を聞く自由を侵害しているなどといった特段の主張はしておらず、ただ警察官らの行為が警職法4条1項、5条等の要件を充足するとの主張をしているにすぎないし、しかも、これまでみてきたとおり、かかる主張はいずれも採用することができない。

 念のために検討しても、原告らの表現行為の内容及び態様は、殊更に特定の人種又は民族に属する者に対する差別の意識、憎悪等を誘発し若しくは助長するようなものや、生命、身体等に危害を加えるといった犯罪行為を扇動するようなものではなく、選挙演説自体を事実上不可能にさせるものでもないのであって、原告らの受けた制限が、公共の福祉による合理的で必要やむを得ないものであったなどと解することは困難である。

◯ そして、表現の自由に関して被告が他に特段の主張をしていない以上、原告らの表現の自由は、警察官らによって侵害されたものというべきである。

(注)なお、原告2については、その主張に従い、表現の自由に加えて、移動・行動の自由、名誉権及びプライバシー権をも侵害されたものと認めた。
 また、これにより原告1は慰謝料30万円及び弁護士費用3万円(合計33万円)の損害を被り、原告2は慰謝料50万円及び弁護士費用5万円(合計55万円)の損害を被ったものと認定した。


判決文


判決を受けての弁護団・原告声明

1 はじめに

 本日、札幌地方裁判所民事5部(廣瀬孝裁判長)は、2019年7月15日にJR札幌駅及び札幌三越前で参議院議員選挙の応援演説を行う安倍晋三元内閣総理大臣(以下「安倍元首相」という)に対して、「安倍やめろ」「増税反対」などと発言したことによって警察官らに排除された原告2名が北海道(警察)を訴えた国家賠償請求事件について、合計金88万円の支払いを認める判決を言い渡した。
 この判決は、北海道警察による表現の自由への侵害を正面から認めた歴史的な判決である。

2 判決の評価

 本日の判決については次の3点を高く評価したい。

 第1に、警職法4条及び5条を理由に警察官らの行為は正当化されるとの被告の主張を明快に排斥し、警察官らの排除行為を違法であると判断した点は、当然のこととはいえ、正当な事実認定及び法適用を行ったものであり、高く評価する。

 第2に、原告らのヤジをいずれも、「公共的・政治的事項に関する表現行為であることは論をまたない」と断じ、かかる表現の自由を警察官らが排除行為によって侵害したと認めた。これは、民主主義社会における表現の自由の重要性を明示した点において、本件の社会的意義について正面から向き合った判断を行ったものであり、この点も高く評価したい。

 第3に、原告2に対する警察官らの執拗な付きまとい行為について、原告2の移動・行動の自由、名誉権、プライバシー権の侵害であることを明確に認めた点も、警察官らの同様の行為を抑止する効果を有するものであり、この点もまた、高く評価したい。

3 最後に

 市民が街頭において抗議の声をあげることは表現の自由として保障されている。特に、市民が政治家とのコミュニケーションをとる機会が限られている中、政治家の演説に対して直接抗議や疑問の声を届けることは、民主主義社会において重要な権利行使の局面である。民主主義社会において賛否両論があることは当然であり、一方の主張を警察権力を用いて封じ込めることは断じてあってはならない。

 本日の判決は、北海道警察による排除行為が、警察権力による表現の自由の侵害であるとして、その手法を厳しく断じた。北海道警察はもとより全ての警察機関には、本日の判決を重く受け止め、違憲・違法な警察活動を繰り返さないことを求める。

 また、鈴木直道知事は、北海道警察を所管する代表者であるだけでなく、排除行為の現場に居合わせている。その意味では傍観者であることは許されない。鈴木知事におかれては、本日の判決には控訴せず、違法・不当な警察活動の再発防止のために政治責任を果たすことを期待する。

2022年3月25日
道警ヤジ排除訴訟原告
道警ヤジ排除訴訟弁護団

札幌地裁で勝訴しました(要旨・判決文あり)」への1件のフィードバック

  1. 当然のこととはいえ、権力による言論の自由の侵害を許さぬ司法の意思が明瞭に示された判決であり、胸のすく思いだ。警察権力の肥大化が無制限に進む中で、言論の自由を警察の都合の良い解釈で形骸化することを厳しく断罪した判決に敬意を表したい。マスコミがこの判決の意義をもっと徹底的に報じてもらいたい。マスコミはヤジポイさんたちの活動によって自らの活躍の基礎を守ってもらったようなものではないか。感謝と自省を込めた報道を期待する。

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