【判決全文】控訴審判決で「半分勝訴」

 2023年6月22日、札幌高等裁判所で、道警ヤジ排除訴訟の第二審判決の言い渡しがありました。その内容は、二人の原告のうち、大杉雅栄に対しては「一審判決を取り消して、請求棄却」、もう一人の原告である桃井希生に対しては、「一審判決を維持して、道警側の控訴を棄却」とするものでした。

 一審判決においては、二人に対する排除について両方とも違法性および権利侵害を、ほぼ全ての場面について認めていました。しかし、第二審である今回の判決では、ヤジを飛ばした二人のうち一人については警察側による排除の問題点を全く認めず(全面敗訴)、もう一人については一審判決をそのまま維持して、警察側の排除の責任を全て認める(全面勝訴)という、不思議な内容でした。桃井に対する賠償金は一審と変わらず、55万円となっています。

 詳細な解説はまた後日載せたいと思います。その上で概略のみを簡単に述べると、「大杉がヤジを飛ばした札幌駅前では、周囲の聴衆からの反発などにより差し迫った危険な事態があったため、危険回避のために強制的に大杉を『避難』させるのは警職法第4条に照らして適法(てきほう)である」と判断しています。
 また、その後に声を上げた札幌三越前では、「大杉の行動や様子、周囲の状況から『まさに犯罪が行われようとしている』と警察官に判断されて『制止』されても仕方ないことから、警職法第5条に照らして適法」と判断しています。

 これらは、要するに道警側の「現場には危険があったから排除は問題なし」という主張をほとんどそのまま採用したもので、当事者としては全く納得できるものではありません。

 実際には現場に差し迫った危険があったとは言えず、(一審で札幌地裁が認めたように)「警察官は政府批判の言論を標的にしていた」という事実から目をそむけた、弱腰の判決と言わざるを得ません。

 今後の対応は検討中ですが、納得いかない判決には全力で抗いたいと思っています。詳細は追って報告いたします。

判決文(主文)

1  原判決主文第1項を取り消す。
2  前項の部分につき、被控訴人1の請求を棄却する。
3  控訴人の被控訴人2に対する控訴を棄却する。
4  訴訟費用は、控訴人と被控訴人1との関係では、第1、2審とも被控訴人1の負担とし、控訴人と被控訴人2との関係では、控訴費用は控訴人の負担とする。

判決文(全文) (2023年6月26日追加)

 13ページあたりからがメインの内容となっています。唐突に「訴外◯」という文字が出てきますが、一審からの裁判書面全体で通し番号をつけています。その他の書面や証拠もゆくゆくはHPにアップロード予定です。


原告・ヤジポイ・弁護団による声明


道警ヤジ排除訴訟・札幌高等裁判所判決に対する声明

 札幌高等裁判所第3民事部(大竹優子裁判長)は、2019年7月15日に安倍晋三元首相に対し「安倍やめろ」「増税反対」などと声をあげたことにより警察官らに排除された市民2名が北海道を訴えた国家賠償請求訴訟について、北海道に合計88万円の支払いを命じた一審判決(札幌地方裁判所)のうち、桃井氏に関する北海道の控訴は棄却したが、大杉氏に関する判決を取り消して同氏の請求を棄却した。私たちは本日の判決に深く失望した。

 本日の判決では、大杉氏に対するJR札幌駅前での排除行為について、聴衆から暴行等を受ける具体的かつ現実的な危険性が切迫し、即時の強制的な退避措置を講じなければ危害を避けられない状況にあったと認定し、警職法4条1項の要件を充足すると判断した。暴行の被害を受ける被害者となるがゆえに表現の自由が侵害されても構わないとする不合理な判断であり、少なくとも侵害される利益と得られる利益との権衡を失している。
  また、札幌三越前での排除行為についても、大杉氏が安倍元首相らに対して物を投げるなどの危害を加える危険性が切迫しており、直ちに実力によってこれを阻止しなければ、安倍元首相らに危害が加えられると判断したことは社会通念に照らして客観的合理性を有するとして、警職法5条の要件を充足すると判断した。しかし、ここでは何ら新たな事実は認定されておらず、判断を変更した理由は全く不明である。

  これらの認定について、裁判所は証人尋問を実施しておらず反対尋問を受けていない警察官らの報告書も含めて信用できると評価した。中には客観的な映像と明らかに矛盾する警察官らの証言を信用できるとした部分もある。そして、一審判決の判断を何の理由も示すことなく覆しているとしか読めない部分もある。不合理かつ恣意的な判断によって結論を変更しているものと言わざるを得ない。
  時の権力者への異論を、警察権力をもって干渉や制限することは、民主主義社会の土台を崩す行為である。本日の判決が警察権力の市民に対する権力行使を後押し、政権に不都合な市民の声に口を塞ごうとする動きに繋がることを憂慮する。

 一方で、桃井氏に関する北海道の控訴は棄却された。その理由の中でヤジが表現の自由として保障されるとした一審判決を維持し、改めて警察官らの行為により桃井氏の表現の自由が侵害されたと判断した。その他、移動・行動の自由、名誉権、プライバシー権が侵害されたことも認めた。
  鈴木知事は北海道警察を所管する代表者として、警察権力による市民の表現の自由の侵害という前代未聞の事態に対し、自らの責任を果たすべきである。鈴木知事は、控訴にあたり決裁に関与せず、副知事に「代決」させたと聞く。桃井氏に関する控訴審判決に対しては、主体的判断を放棄せず、自らの政治責任に基づき上告を断念することを求める。そして、違憲・違法な警察活動の原因を究明するとともに、再発防止の措置を講じることを期待する。

2023年6月22日
道警ヤジ排除訴訟被控訴人ら(一審原告ら)
道警ヤジ排除訴訟弁護団         
ヤジポイの会              

報告集会の様子(動画)

判決直後の報告集会の様子をyoutubeで配信しました。録画を掲載しておきます。

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