case.2 中曽根元首相国葬サボテン排除事件

日時2020年10月17日
場所JR品川駅高輪口前の横断歩道
排除された人栗田隆子さん(文筆業・活動家)など7名
そこへ行った目的中曽根元首相の葬儀を国費で行った日本政府に抗議するため
主張の内容主張していない(一人だけプラカードをカバンから出したが掲げていない)
警察の対応立ち塞がり、目的地に向かおうとする栗田さんらの進行を阻害した
対応の根拠不明

[桃井]どんな目的でそこへ行ったのでしょうか?

[栗田さん(以下、敬称略)]派遣法や労組潰しなど現在の多くの新自由主義的な社会の原型を作った上、「慰安所」を作ったことなどを公言した中曽根元首相。彼の葬儀を国費で行った上、全国の国立大学や教育委員会に弔意表明を求める日本政府に抗議して、葬儀場の周辺でプラカードを持ってサボテンのようにたたずんでいようと思っていただけでした。私はうつだけど、何もやらないのも悔しかったので、かまえずに計画できるような、緩い企画を立てて、友人に声をかけました。
 詳しくは、事件後に、一緒にいた仲間と発行した文集に抗議声明を載せています。
 同じ新自由主義的な政策を進めていたサッチャー元首相が死んだときは、「西の魔女が死んだ」って、イギリスの労働組合の人が踊っていたんですよ。でもロナルドレーガンが死んだときに踊った話は聞いたことがなかったから、「サッチャーのときは女性だからって盛り上がったの?」って思いました。そうなると、中曽根のときにも盛り上がらなきゃ嫌だなって思ったわけです。

当日つけていたサボテン柄マスク

[桃井]当日はどのような状況でしたか?

[栗田]メンバーは、緑のドレスコードにサボテン柄マスクで揃えていました。友人7人(一人は遅れて来た)で、品川駅高輪口前から葬儀会場である品川プリンスホテルに行こうと横断歩道を渡っていたところ、警察10人以上に立ち塞がれて、前に進めなくなりました。会場まであと300mほどというところです。4車線を横切る広い横断歩道で、周りの人は普通に渡れているのに、私たちのグループだけ進めなくなりました。


警察から取り囲まれているサボテンマスクの人々(集団からはぐれた人が撮影)

[桃井]その時点で抗議行動などをしていたんですか?

[栗田]シュプレヒコールはもちろん、プラカードすら出していません。遅刻して集団から遠くはぐれていたひとりだけは、プラカードをカバンから出していたようですが、それでも掲げるなどはしていないはずです。

[桃井]警察は排除の根拠をどのように説明していましたか?

[栗田]「無理なんで、やめてください」と薄ら笑いで言っただけでした。
 法的根拠を聞いても、「今通せませんで」「勘弁してくださいよー」などとモゴモゴ言うだけでハッキリ言うこともありません。こちら側もびっくりして、「なんでですか!?」ぐらいしか言えませんでした。警察手帳も示されていません。毅然としているわけでもなく、押せば通るでしょみたいな感じで…。


栗田さんたちの前に立ち塞がる警察(このときの目線は撮影者に向けられている)

[桃井]その後、どうなったのでしょうか。

[栗田]事前に打ち合わせをしていなかったので、各自散り散りになりました。
 私はメンバーと二人でタクシーに乗りましたが、その後も数人の警察につきまとわれ、タクシーで会場に向かおうとすると、警察官から「この先規制しているので迂回してください」などと言われて進むことができませんでした。他の車やタクシーは同じ方向へ進んでいくにもかかわらず…。また、同じグループでも、ホテルの出入り口まで行けたタクシーもあり、警備の雑さが伺えます。
 その後ひとりが駅前に戻って、制服の警察官に「先ほど横断を止められたものですが、連れと連絡がつかなくて心配している」と話しかけると、「あの方たち(栗田さんら)は品川wingの二階のトイレに行きました。行ってみたら会えますよ」と教えられたそうです。「会場では何か行動されていましたので、それはお断りしました」とまで。そのとき私ははぐれた仲間との連絡などで忙しく、タクシーを降りた後に立ち寄った品川wingの中までつきまとわれていたことには気づいていませんでした…。

[桃井]サボテングループとは別のグループの抗議者で、ホテル内にまで入っていけた人もいるそうですね。

[栗田]はい。中曽根国葬に抗議する目的でホテルに入って葬儀会場に近づき、警察官にブロックされながらも、内閣府担当職員や葬儀参加者に抗議した人たちもいました。

[桃井]当時は私も「国葬なんてするの!?」と驚いていました。国葬には、今も中曽根の威厳を保とうとする政府の意図が伺えます。

[栗田]政府はそういう装置づくりを細かくやっていると思います。たとえば、4月29日は昭和天皇誕生日でしたが、みどりの日になって、また昭和の日になって…って、暦ひとつとっても右派政治家は敏感になって操作しようとするじゃないですか。天皇の誕生日を大事なものとして印象づけるために、着々とそういう装置を作っているんだと思います。中曽根国葬の件は、天皇制はいいぞ、天皇に従って国のために尽くした人はこんなに祀られるんだ、みたいなことを、かなり意識して仕掛けた結果じゃないでしょうか。

[桃井]日本で一番大きい労働組合のナショナルセンターである連合の会長も、天皇から勲章をもらうそうですね。

[栗田]元号が変わったことに伴う「国民の祭典」のとき、列席者一覧を見たら、連合のトップと日本会議のトップの名前が並んでいたんですよね。日本会議がそこにいるのは当たり前として、連合のトップはそこにいたらダメだろ!と思います。総評(連合ができる前のナショナルセンター)も中曽根が潰したようなものですし。その歴史は大きいですよね。連合から労使協調路線がいっそう強まるわけですから。(了)

於:2021年*月*日オンライン
聞き手:桃井

編集後記

中曽根国葬で排除された人の文集の中で、「内心の自由が侵された」というお話が印象的でした。その日、サボテンのマスクをした集団は、表現をしようとすることすら許されず、一言の抗議の声も上げられないまま葬儀会場周辺から排除されました。「今はやってはいないけど抗議行動しそう」というだけで排除されることを許してしまえば、そのとき横断歩道を渡っていた全員が抗議行動をする可能性があったでしょう。葬儀会場周辺で危険行為をするつもりの人は、集団でドレスコードを統一するような目立つ格好をするとは考えにくく、警察の対応は抗議行動潰し以外の何物でもありません。現場を離れてからも監視し続けているというのも、絶対に国葬への抗議を阻止しようという強い意志を感じます。今回の排除の法的根拠を警察は説明できるのでしょうか。

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